江國香織さんの食べ物描写の魅力
私は江國香織さんの小説が大好きです。
江國さんの作品は共通して愛する事と食事に対して嘘をつかずごまかさずまっすぐで、その二つの気持ちに対して誠実さと愛情であふれている気がします。
江國さんの作品の中でも特に食事のシーンが大好きな作品を少しずつ紹介したいと思います。
なお、ネタバレの要素がありますので、まだ読んでいない方はご注意ください。
きらきらひかる
アル中の妻・笑子と、夫のゲイである睦月の結婚生活の物語。
決して愛されることはないけれど、どうしようもなく睦月を愛している笑子と
笑子を抱くことはできないけれど、家族愛か友情なのか笑子を支え大切にする睦月。
睦月の笑子への愛情は笑子へのプレゼントや睦月が作る手料理に表れています。
クリスマスにプレゼントしたシャンパンマドラー。
これは高級なシャンパンには必要なくて、安物のシャンパンに泡を立たせるのに使う道具で
笑子を喜ばせます。
後にアルコール2%未満のシャンパンを泡立たせて飲むシーンが何度か出てきて
睦月のお酒をやめられない笑子に対する愛情が感じられます。
睦月が作る料理も、作る工程が細かく描写されているわけではありませんが、睦月の笑子への愛情、気遣いがあふれています。
例えば朝、食欲のない笑子に目玉焼きを断られると、すぐさま「オレンジは?」と聞いて「食べる」と答えた笑子にくし形に切ったオレンジをガラスの器に盛って出してあげます。
本当は眠いであろうに、夜勤のたびにドーナツをたくさん買って帰り、しかも笑子の好きなシナモン味ではないプレーンのレーズンを探してきます。
晩ご飯のシチューに、ハンバーグ。
卵スープときのこのソテー。こちらは本当はハンバーグの種の残りを利用してミートボールをメインディッシュに作る予定だった日。だけど笑子が野生動物のドキュメンタリー番組の話をするのでミートボールを作れなくなってしまったため質素なメニューとなってしまった。それでも怒ることなく受け入れる睦月。
落ち込み荒れる笑子に対して用意する朝ごはん、チーズトーストとサラダにシャンパンマドラーで泡立てたアルコール2%未満のお子様シャンパン。最初は笑子が好きなホットケーキを作ろうかと思うが、患者扱いしていると逆に怒らせてしまうかもしれないので、上記メニューにする。それでもサラダやシャンパンをつける辺りが愛情を感じさせられる。
買いだめしていた食料がなくなってきたため、お好み焼きの晩ごはん。親族会議でとても疲れた日だったが、お子様シャンパンとともにたくさん食べる。笑子に愛される価値が自分にあるのか悩みながらも、それでも、笑子とのこの生活が大切であることが伝わってくる食事でした。
一方笑子の用意する食事は直観的ですが、でもそれが魅力の一つであるように思えます。
例えば初めて睦月の友人を招いてホームパーティーをする時。
みんな大人なのに笑子が考えたメニューは子どものパーティーのようなメニュー。
いなりずし、のりまき、フライドチキン、ポテトチップスに、生野菜、アイスクリーム。
当日、生野菜は人参と大根はかろうじてぶつ切りにされているが、サラダやきゅうりは丸ごとで、食器用の水切りザルに盛られて出てきます。
みんな最初唖然としますが、女性というイメージの覆す笑子に気を許したのか、みんな時間を忘れよく食べ、よく飲みよくしゃべり、みんな笑子のことを気に入ります。
他に枝豆を用意したり、晩御飯に温めたパンに梨とブドウを用意したりします。
本人の食べたいものに正直で嘘をつかず、常識を気にしない、そして恐らく相手も喜んでくれると信じている笑子らしさがうかがえるメニューです。
「きらきらひかる」の魅力を食事の面から書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
私の中で一番好きな恋愛小説です。少しでも魅力が伝われば嬉しいです。
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きらきらひかる (新潮文庫 えー10-1 新潮文庫) [ 江國 香織 ]